~身体の左右差と、毎日の生活習慣~
顎関節症の方を診ていると、
口を開けたり閉じたりするときの動きに、左右差が見られることがあります。
まっすぐ開いているように見えて、少し横へ動きながら開いていたり。
左右で動き方が違っていたり。
以前、とあるミュージシャンのライブに行ったときに片側の顎の動きが悪いのに目が言ってしまい
そのあと正直ライブに集中できなくなったという治療家あるあるを経験しました。
でもね、口の中を観察してみても、左右がまったく同じではないことはよくあることなんです。
例えば、のどの奥にある「口蓋垂(こうがいすい)」、いわゆる「のどちんこ」も、必ずしもきれいに真ん中に見えるとは限りません。
でも私は、
「左右が違う=悪い」
とは考えていません。
そもそも身体は左右対称ではありません
私たちの身体は、完全なシンメトリーにはできていません。
顔だって、右と左では少し違います。
利き手もあります。
いつも同じ足から階段を上り始める人もいます。
口の開け方や噛み方にも、多少の左右差があります。
だから、身体を診て左右差があったからといって、
「ここが歪んでいます。」
「右と左が違うから治さなければいけません。」
と、すぐに考える必要はありません。
身体にはある程度の左右差を受け入れながら、うまく動くための許容範囲があると私は考えています。
問題になるのは、
その左右差が、身体がうまく対応できる範囲を超えてきたとき。
では、なぜその範囲を超えてしまうのでしょうか。
私はそこに、日々の身体の使い方が大きく関係していると考えています。
顎の左右差なのに、家具の配置を見る?
例えば、
毎日テレビを見ながら食事をする方がいるとします。
食卓の真正面にテレビがあればいいのですが、
テレビがいつも右側にあったらどうでしょう。
食事をしながら、毎日何度も右を向きます。
その状態で噛んだり、飲み込んだりします。
1日だけなら、たいしたことではありません。
でも、それを何年も繰り返していたら?
あるいは、
気づかないうちに、いつも同じ側の歯で噛んでいる。
いつも同じ側でバッグを持つ。
ソファーに座る場所がいつも同じで、テレビを見る方向もいつも同じ。
そんな小さな「いつも同じ」が、私たちの生活にはたくさんあります。
だから私は、身体を診るとき、
身体だけではなく、その人が普段どんな環境で生活しているのか
も大切にしています。
私も、ベッドの位置を変えて気づいたことがあります
以前、私は半年ごとにベッドの位置を変えていた時期がありました。
といっても、
最初から身体のために始めたわけではありません。
冬になると窓際が寒い。
ただそれだけの理由で、寒い季節はベッドを窓から離れた場所へ移動していました。
ところが、ベッドの位置を変えてみると、いろいろなことに気づきました。
起き上がる方向が変わる。
寝た状態から部屋を見る方向も変わる。
枕元にある物へ手を伸ばす方向も変わる。
「あ、私って毎日こっちばかり使っていたんだ。」
環境を変えてみて初めて、無意識に繰り返していた身体の使い方に気づいたのです。
自分では「癖」だと思っていなくても、
生活環境そのものが、毎日同じ身体の使い方を作っていることがあります。
これは私にとって、とても大きな気づきでした。
左右差を見つけても、すぐにお伝えしないことがあります
実際の施術でも、
口の開閉や身体の動きに左右差を見つけることがあります。
でも私は、それをすぐ患者さんにお伝えするとは限りません。
なぜなら、
「右にずれていますよ。」
「こっちの動きがおかしいですよ。」
と言われたことで、それまで気にしていなかったところが急に気になってしまう方もいるからです。
鏡を見るたびに確認する。
口を開けるたびに、
「また右に行っている。」
と気になる。
そして一生懸命、真っすぐ動かそうとする。
そうなると、かえって身体に余計な力が入ってしまうこともあります。
左右差があることと、病気であることは同じではありません。
必要以上に「悪いところ」を作らないことも、大切だと私は考えています。
身体全体の「サビ取り」をすると変わることがあります
そこで私は、まず身体全体を診ます。
動きにくくなっている関節はないか。
背中は動いているか。
肩甲骨はどうか。
頭と身体はうまく連携しているか。
そうした身体全体の「サビ取り」をして、もう一度動きやすい状態を作っていきます。
すると、
顎を一生懸命「真っすぐにしよう」としなくても、
身体全体が動きやすくなることで、口の開閉に見られていた左右差が小さくなることがあります。
そんなときは、
最初に左右差があったことを、あえてお知らせしないまま施術を終えることもあります。
顎だけを見ていたら、
「顎がずれているから、顎を直さなければ。」
となっていたかもしれません。
でも、身体全体を見ていると違う景色が見えることがあります。
顎は身体全体の中で働いています
前回の顎関節シリーズ②では、
「顎は身体のバランサーではないか」
というお話を書きました。
顎だけが身体から独立して存在しているわけではありません。
身体全体の使い方の中で、
顎もその人なりにバランスを取りながら働いています。
だから私は、
「顎が痛い=顎が悪い」
とは考えません。
もちろん、顎そのものに問題がある場合もあります。
しかし、
身体全体の動きや日々の生活習慣によって、結果として顎に負担が集まっていることもあります。
だからこそ、顎関節症の方でも身体全体を診ます。
おわりに
顎の動きに左右差がある。
肩の高さが違う。
身体の片側が使いやすい。
そんな左右差を見つけると、
「真っすぐにしなければ。」
と思ってしまうかもしれません。
でも、人間の身体はもともと完全な左右対称ではありません。
大切なのは、左右差をゼロにすることではなく、
身体が無理なく対応できる範囲で動けていること。
そして、その範囲を超えるほど同じ使い方を繰り返していないか、一度生活を振り返ってみることです。
顎が気になるからと、鏡の前で一生懸命真っすぐ口を開けようとする前に、
「私はいつもどちらを向いて食事をしているかな?」
「いつも同じ側で噛んでいないかな?」
「家の中で、いつも同じ方向ばかり向いていないかな?」
そんなところを一度観察してみてください。
顎とはまったく関係なさそうな毎日の生活の中に、身体を変えるヒントが隠れているかもしれません。
→ 【顎関節シリーズ②】「顎って、そもそも何をしている関節なんですか?」
~顎は身体のバランサー~